IT全般統制とは?監査対応で情シスが準備すること
IT全般統制(ITGC)を情シスの準備の順に整理。IT統制の3階層、4つの領域と監査で求められる証跡、対象システムの決め方、RCMの記入例、年間の動き方、よく指摘される不備と防ぎ方まで。
IT全般統制とは、会計や販売などのシステムが正しく作られ、正しく動き続けることを支える、システム横断の管理の仕組みです。英語ではITGC(IT General Controls)と呼ばれ、上場企業が金融商品取引法に基づいて行う内部統制報告制度(J-SOX)の中で、経営者が評価し、監査法人が監査する対象になります。
中身は、変更管理、運用管理、アクセス管理、外部委託の管理という、情シスが日々やっている仕事そのものです。監査で問われるのは「やっているか」より「やったことを第三者が確かめられる形で残しているか」です。IT統制の3つの階層、4つの領域と求められる証跡、対象システムの決め方、RCMの記入例、年間の動き方、よく指摘される不備を、情シスの準備の順に並べます。
この記事でわかること
- IT統制を構成するIT全社統制・IT全般統制・IT業務処理統制の違い
- IT全般統制の4つの領域と、監査で求められる証跡の例
- 対象システムの決め方と、SaaS・外部委託先の扱い
- RCM(リスクコントロールマトリクス)のIT全般統制部分の記入例と、年間の動き方
- よく指摘される不備の原因と防ぎ方、情シスが今から準備すること
IT統制とは:3つの階層の違い
内部統制報告制度では、内部統制の基本的要素の1つとして「ITへの対応」が挙げられており、その中のIT統制は、次の3つの階層に分けて評価されます。金融庁の実施基準では「ITに係る全般統制」のように呼ばれますが、実務では短く「IT全般統制」と言うことがほとんどです。
| 区分 | 対象 | 例 | 主な担当 |
|---|---|---|---|
| IT全社統制(ITに係る全社的な内部統制) | 会社全体としてのITの方針と体制 | IT戦略と規程、IT組織と責任者、ITリスクの評価、委託先管理の方針 | 経営、情シスの責任者 |
| IT全般統制(ITに係る全般統制) | 業務処理統制が載っているシステム群の管理 | 変更管理、運用管理、アクセス管理、外部委託の管理 | 情シス |
| IT業務処理統制(ITに係る業務処理統制) | 個々の業務システムに組み込まれた処理 | 入力チェック、自動計算、マスタの管理、システム間連携の完全性 | 業務部門と情シス |
IT全般統制が効いていないと、IT業務処理統制も信頼できなくなります。例として、販売管理システムの請求金額の自動計算(業務処理統制)が今日正しくても、誰でもプログラムや設定を変えられる状態(全般統制の不備)なら、その計算が期末まで正しい保証はありません。監査人はこの理屈で、全般統制に不備があるシステムについては自動化された統制に頼れないと判断し、手作業による追加の検証を求めます。全般統制の不備が、経理部門の作業を増やす形で跳ね返ってくるわけです。
IT全般統制の4つの領域と、監査で求められる証跡
| 領域 | 典型的なコントロール | 求められる証跡の例 | 情シスの日常業務 |
|---|---|---|---|
| システムの開発・保守(変更管理) | 本番への変更は申請・承認・テストを経て行う。開発した人と本番に反映する人を分ける | 変更申請と承認、テスト結果、本番反映の記録、システムの変更履歴との突き合わせ | 変更管理、リリース作業 |
| システムの運用・管理 | バッチ処理の監視とエラー対応、バックアップと復元、障害の記録 | ジョブの実行結果、エラー時の対応記録、バックアップの取得記録 | 監視、障害対応 |
| アクセス管理(システムの安全性) | IDの登録・変更・削除を申請と承認に基づいて行う。特権IDを制限して利用を記録する。権限を定期的に棚卸しする | ID申請、人事の異動・退職データとの突き合わせ、特権IDの利用ログとレビュー、棚卸しの記録 | 入退社の処理、ID管理 |
| 外部委託の管理 | 委託先の選定と契約、委託先の統制の評価 | 契約書、サービスレベルの報告、委託先の保証報告書(SOC1報告書など)と、その評価の記録 | ベンダー管理、SaaS管理 |
右端の列が示すとおり、求められることの大半は、情シスがすでにやっている仕事です。違いは記録の残し方にあります。退職者のIDを止めていても、人事の退職者一覧と突き合わせた記録がなければ、監査人は「全員分を止めた」ことを確かめられません。変更管理の考え方そのものはITILの変更の3分類がそのまま使えます。
対象システムの決め方(スコーピング)
社内の全システムが評価の対象になるわけではありません。対象は、財務報告に影響する業務処理統制が載っているシステムと、その土台(データベース、OS、ネットワーク、ID基盤)です。一般的な事業会社では、売上・売掛金・棚卸資産に至る業務プロセスが評価の中心になるとされ、そこで使う販売管理、在庫管理、会計のシステムが候補になります。
- 経理・内部監査の担当と一緒に、評価対象の業務プロセスと、その中の自動化された統制(自動計算、入力チェック、システム間の連携)を洗い出す
- それらの統制が動いているシステムを一覧にする。SaaSも含める
- システムごとに、アプリケーション・データベース・OS・ネットワーク・ID基盤のどの層までを対象にするかを決める
- SaaSや外部委託先について、保証報告書が入手できるかを確かめ、入手できない場合の代わりの手続きを監査人と相談する
- 対象の一覧を監査人と合意し、年度の途中でシステムが変わったら、その都度連絡する
SaaSの会計システムでも、利用者のIDと権限、マスタの変更は自社の統制の範囲に残ります。事業者のSOC1報告書(受託業務に係る内部統制の保証報告書)には、利用者側で実施することが前提になっている統制が書かれているので、その項目を自社のRCMに取り込みます。IDの付与と停止をSSOとSCIMで自動化しておくと、この部分の統制と証跡づくりが大きく楽になります。確認項目はSaaSのSSO/SCIM対応チェックリストにまとめています。
RCMのIT全般統制部分の記入例
RCM(リスクコントロールマトリクス)は、リスクとそれに対応するコントロールを1行ずつ並べた表で、実務では業務記述書・フローチャートと合わせて「3点セット」と呼ばれることの多い文書です。全般統制の各行には、「誰が・いつ・何を・どの証跡で」を1行に収めます。
| 番号(例) | リスク | コントロール | 頻度 | 実施者 | 証跡 |
|---|---|---|---|---|---|
| ITGC-01 | 退職者のIDが残り、不正に使われる | 人事の退職者一覧と各システムの有効なIDを突き合わせ、退職日から○営業日以内に無効化する | 都度。突き合わせは月次 | 情シス担当 | 退職者一覧、無効化の記録、確認者と日付の入った突き合わせ表 |
| ITGC-02 | 特権IDが業務に不要な人に使われる | 特権IDの利用は事前申請とし、利用ログを月次でレビューする | 月次 | 情シス責任者 | 申請の記録、ログのレビュー記録 |
| ITGC-03 | 不要な権限が積み上がる | 部門長が所属員の権限一覧を確認し、不要な権限の削除を依頼する | 半期 | 各部門長、情シス | 確認者の署名と日付の入った権限一覧、削除の記録 |
| ITGC-04 | 承認のない変更で計算の処理が誤る | 本番への変更は、申請・承認・テストの記録がそろった場合だけ反映し、反映する人は開発した人と別にする | 都度 | 情シス | 変更申請、承認、テスト結果、反映の記録 |
| ITGC-05 | 夜間バッチのエラーが放置され、売上データが欠ける | ジョブの結果を毎朝確認し、エラーは原因と再処理の結果を記録する | 日次 | 運用担当 | ジョブの実行結果、エラー対応の記録 |
| ITGC-06 | 委託先の統制の不備に気づかない | SaaS事業者のSOC1報告書を年1回入手し、例外事項と利用者側の統制を確認する | 年次 | 情シス責任者 | 報告書、評価の記録 |
コントロールの文に「適切に」「必要に応じて」と書かないでください。監査人は「適切かどうか」を判定できないので、テストの手続きを組めません。頻度、実施者、期限、証跡が具体的に書かれていれば、監査人はサンプルを選んで証跡を確かめるだけで済み、情シスの対応時間も短くなります。具体的に書けないコントロールは、運用の中身が決まっていない疑いがあります。
証跡は、実施したその時点で作ってください。監査の直前に過去の日付で確認表を作ると、記録全体の信頼性が疑われ、手続きが1件漏れていたことより重い問題になります。棚卸しや突き合わせは、実施した日に確認者の名前と日付が入った状態で保存し、以後は編集できない場所(読み取り専用のフォルダや、変更履歴が残るシステム)に置きます。
監査対応の年間の動き方
評価は、コントロールの設計が妥当かを見る整備状況の評価と、1年を通じて実際に運用されたかを見る運用状況の評価の2段階で進みます。時期は監査人との計画で決まるので、次は3月決算の会社を想定した一例です。
| 時期(例) | やること | 情シスの準備 |
|---|---|---|
| 期初 | 前年度の指摘への対応、対象システムの見直し、RCMの更新 | システムや組織の変更をRCMに反映する |
| 上期 | 整備状況の評価。監査人が、規程・手順・実際の記録を1件ずつたどって設計を確かめる | 規程、手順書、RCM、実際の記録を1件ずつ見せられるように並べる |
| 下期 | 運用状況の評価。監査人がサンプルを選び、証跡を確かめる | 指定されたサンプルの証跡をすぐに出せるよう、保管場所の一覧を作る |
| 期末の前後 | 評価の後から期末までの期間の確認(ロールフォワード)、不備の是正状況の確認 | 期末までの変更とIDの異動の一覧を用意する |
不備が見つかった場合、影響の大きさによっては「開示すべき重要な不備」として内部統制報告書に記載されることがあります。情シスにとって現実的な目標は、不備をゼロにすることではなく、見つかった不備を期末までに是正し、是正後の運用を一定期間示せる状態にしておくことです。そのためにも、上期の整備状況の評価で指摘を早く受ける方が有利です。
よく指摘される不備と防ぎ方
| 不備 | 起きる原因 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 退職者のIDが残っていた | 人事からの連絡が情シスに届かない。SaaSが一覧から漏れている | 人事データを起点にSSOとSCIMで自動停止し、SSO外のSaaSは月次で突き合わせる |
| 特権IDを複数人で共有している | 個人ごとの管理者アカウントを作っていない | 個人別の特権IDにし、共有が避けられないものはパスワード管理ツールで貸出を記録する |
| 開発した人が本番を直接変更できる | 担当者が少なく、職務を分けられない | 変更の後で別の人が変更ログを確認する(発見的な統制) |
| 棚卸しは実施したが記録がない | 口頭やメールで済ませた | 確認者と日付の入った一覧を保存する手順にする |
| 変更の承認が事後になっている | 急ぎの変更が常態化している | 緊急変更の定義と事後承認の期限を決め、件数を毎月確認する |
| SaaSの操作ログが評価期間を満たさない | プランごとのログ保存期間を確認していない | 保存期間を確かめ、足りなければ定期的に外部へ書き出す |
3行目の「職務を分けられない」は、情シスが数人の会社では避けられません。この場合は、変更を事前に止める予防的な統制の代わりに、変更の後で別の人が確かめる発見的な統制を置くことを監査人と相談します。本番の変更ログを週次でレビューし、レビューした人と日付を残せば、少人数でも説明のつく形になります。
SaaSの操作ログ(監査ログ)の保存期間は、製品と契約プランで違います。保存期間が評価の対象期間より短いと、期末に遡ってログを確かめられません。対象のSaaSごとに保存期間を確かめ、足りなければログを定期的に書き出して、改ざんできない場所に保管してください。
情シスが今から準備すること
- 財務報告に関わるシステムの一覧(SaaSを含む)と、各システムの管理者の一覧
- 入社・異動・退職のID処理の手順と、人事データとの突き合わせの記録
- 特権IDの一覧と、利用の申請・ログ確認の手順
- 本番変更の申請・承認・テスト・反映を1件ずつたどれる記録の残し方
- ジョブ監視とバックアップの記録、委託先とSaaSの保証報告書の入手状況
ISMSを取得している、または取得を進めている会社なら、アクセス管理や変更管理の規程と記録の多くをそのまま流用できます。ISMSの管理策とIT全般統制の4領域を対応させた表を作っておくと、監査と審査の両方に同じ証跡を出せます。ISMSの進め方はISMS認証取得の進め方で扱っています。
よくある質問
IT統制とIT全般統制の違いは何ですか?
IT統制は、ITに関わる内部統制の総称で、IT全社統制、IT全般統制、IT業務処理統制の3つで構成されます。そのうちの1つがIT全般統制で、個々の業務処理を支えるシステム群を、変更管理・運用管理・アクセス管理・外部委託の管理によって正しい状態に保つ仕組みを指します。
IT全般統制は必要ですか?
上場企業には内部統制報告制度の評価対象として必要で、上場を準備している会社も、上場後の評価に備えて準備の段階から整備が求められます。それ以外の会社に法的な義務はありませんが、ID管理・変更管理・バックアップの記録を残す仕組みは、ISMSの審査や取引先のセキュリティ監査、障害の原因調査でも同じように求められるので、規模に合わせて整えておく価値があります。
IT全社統制とは何ですか?
会社全体としてITをどう管理するかを定める統制で、IT戦略や規程、IT組織と責任者、ITに関するリスクの評価、委託先を管理する方針などが含まれます。個々のシステムではなく方針と体制が対象で、IT全般統制とIT業務処理統制がきちんと働くための土台になります。
SOX法とJ-SOX法の違いは何ですか?
SOX法は米国の企業改革法、J-SOXは日本の金融商品取引法に基づく内部統制報告制度の通称です。J-SOXは米国の制度を参考にしつつ、内部統制の基本的要素に「ITへの対応」を加え、監査人が経営者の評価結果を監査する間接的な方式を採っている点が主な違いです。細部は金融庁の基準で確認してください。
まとめ
IT全般統制は、情シスがすでにやっている変更管理・運用管理・アクセス管理・委託先管理を、第三者が確かめられる記録として残す仕組みです。対象は財務報告に関わるシステムとその土台に絞り、RCMには「誰が・いつ・何を・どの証跡で」を具体的に書きます。証跡はその場で作り、職務を分けられない部分は事後のレビューで補ってください。